サステナブル、SDGs、エシカル、といった言葉の広まりにより、プラスチックの備品を紙製・木製に切り替えるなどの動きがホテル業界でも出てきていますよね。
今回は、ストイックにごみ削減(ゼロウェイスト)に取り組まれているホテルを5つ厳選してご紹介します。
・ごみをなるべく出さない工夫をしている
・ごみを資源ととらえて有効活用している
という点がセレクトの基準です。
いずれも快適に宿泊できるホテルなだけでなく、学びにもつながると思います。
ホテルニューオータニ|東京
写真:ホテルニューオータニHP
ホテルニューオータニは東京オリンピックが開催された1964年に開業した、東京都の中心部に位置する歴史あるホテルです。
3棟構成で一番高い棟は40階建て、客室数は1479、レストラン数が40弱、都内最大級のプールや約1万坪の日本庭園、ショッピングアーケードクリニックが併設されていると聞くと、規模感を想像していただけるのではないでしょうか。
大規模な老舗ホテルである「ホテルニューオータニ」のゼロウェイストポイントをご紹介していきます。
1.厨房から出る生ごみは100%堆肥化
ホテルニューオータニの特徴は、なんといっても生ごみ堆肥化の取り組みです。
ホテルはレストランや宴会場を多数併設しているため、一日当たり何と約5トンもの生ごみが出るそうです。
1999年に生ごみを処理するためのコンポストプラントを導入。
厨房から出る食品ごみをコンポストプラントで堆肥化し、提携先の農園に運んでいます。
そして農園の堆肥を使った土壌で収穫された野菜が、再びレストランの食材として戻ってくる、というまさに理想的な循環を20年以上も続けられています。
また、一部の堆肥は400年間受け継がれてきた日本庭園にも使われています。
2.厨房の排水を100%リサイクル
生ごみだけでなく、厨房の排水も100%リサイクルされているようです。
ホテルのレストランの厨房では、1日あたり1,000tの厨房排水が出るとされています。
厨房から出た排水は中水造水プラントでバイオ処理され、トイレの排水や植栽の灌水に活用するといった取り組みも1991年から開始しています。
3.食品ロス削減メニューの開発
ニューオータニでは、食品ロス削減の対策のメニュー開発にも力を入れられています。
従来捨てられてしまっていた植物の皮や芯なども可能な限り全て加工したミツカンの「ZENBシリーズ」を取り入れたメニューも開発されています。
その他、期間限定で生ごみとなる予定だった果物の皮や朝食で余った牛乳を使ったカクテルをメニューに加えるなど、食品ロス削減と美味しい食事の提供の両立に力を入れられていることが伝わってきます。
4.旧館を耐震補強
歴史ある旧館は、建て替えも検討されたようですが、旧館をそのまま耐震補強してリニューアルする道を選ばれています。
建物を完全に解体してしまうとその分産業廃棄物が出てしまうため、元々の建物の構造を利用することは廃棄物削減にもつながります。
もちろん建て替えより建築費も抑えられるという事業面でのメリットもあったと思われます。
5.その他環境負荷削減の取り組み
その他にも環境負荷削減に対して数々の取り組みを実施されています。
- 熱や紫外線を50%カットする「エコガラス」の導入
- 部屋ごとに細かい温度設定が可能なオリジナル空調システム
- 屋上緑化・ビオトープの設置
- 木製受水槽の活用
- 井水を造水する高度処理プラントの設置
- コジェネレーション設備の設置
環境への取り組みは一覧の資料にまとめられていますので、ご興味のある方はご覧下さい。
不定期に宿泊者限定の館内環境設備見学ツアーを開催されることもあるようです。
気になられる方はこまめに情報をチェック下さいね。
川崎キングスカイフロント東急REIホテル
川崎キングスカイフロント東急REIホテルは、神奈川県川崎市で2018年に開業したホテルです。
多摩川を挟んで羽田空港が望める絶景スポットに立地している点が特徴です。
「遊び」「働き」「泊まる」ことができるというコンセプトのもと、レストラン、カフェ、バー、ライフスタイルストア、エクササイズルームが併設されています。
ブルックリン風の内装インテリアもおしゃれです。
GW中も毎日2名7,000円台で泊まれちゃうとっておきホテル紹介します🏨ホテル好き界隈でもあまり話題にならないダークホース「川崎キングスカイフロント東急REIホテル」は多摩川沿いにエアポートビューが楽しめるコスパホテル。羽田から車で5分、徒歩15分✈️気軽に非日常ステイを満喫できます。 pic.twitter.com/racLr6eUcP
— トマルちゃん ✈︎ 宿好き元OTA OL (@tomaruchan_ota) 2022年5月4日
景色を楽しめるおしゃれなホテルの「ゼロウェイストポイント」は、工業地帯に隣接するからこその取り組みです。
1.廃プラスチック由来のエネルギーをホテルで使用
川崎キングスカイフロント東急REIホテルでは、開業時から廃プラスチックを原料としてエネルギーを作り出す仕組みを取り入れており「水素ホテル」とも呼ばれています。
工業都市川崎ならではの公民連携のプロジェクトとして取り組まれた内容です。
水素はホテルから5km離れた「昭和電工」の工場で作られ、ホテルまでパイプラインで運ばれます。
ホテル敷地内の水素燃料電池を通じてエネルギーを取り出す仕組みで、ホテル全体で使う電気・熱エネルギーの約30%を廃プラ由来のエネルギーで賄っているのだそう。
電気1日の発電量は、およそ4人家族82世帯分。発電された電力は屋内でのレタス栽培にも活用されています。
また、燃料電池で発電する際にできる排熱は大浴場の給湯に活用されています。
ホテルで使用されたプラスチック製品も、工場に運ばれエネルギーに生まれ変わるという循環サイクルを生み出しています。
2.ホテルから出る食品廃棄物から発電された電力を使用
食品廃棄物は一般的に堆肥化されることが多いと思いますが、本ホテルでは横浜市のJFEバイオフードリサイクルへ食品廃棄物を運び、電力に変えています。
具体的には、食品廃棄物を微生物によってメタン化し、発生したバイオガス燃料を元に発電しているそうです。
さらに、JFEバイオフードリサイクルの電力を調達している電力会社(アーバンエナジー)と契約し、食品廃棄物から生まれた電力をホテルで使用するというエネルギーの流れを生み出しています。
3.使い捨てアメニティ削減のグリーンコイン制度
「グリーンコイン制度」は東急ホテルズ全体で2001年より導入されている制度です。
歯ブラシやカミソリなど、客室に置かれている使い捨てアメニティを使用しなかった場合、チェックアウト時にグリーンコインをフロントの回収スタンドにかけるという仕組みです。
回収されたコイン枚数分の基金が日本国内の緑化活動に寄付されます。
グリーンコインって
— 雲井 零(クモイ レイ)@KOBE艶男(アデメン)プロジェクト (@Rei_ademen) 2022年6月14日
知ってる?
東急ホテルズの環境活動のひとつやねん。
宿泊された際に、対象のアメニティを使用されなかったらこのグリーンコインをフロントのスタンドにかけてもらって、環境保全活動の基金にしてるんです🎶
詳しくはhttps://t.co/ChgQFIm5ar#サステナブルなホテルづくり pic.twitter.com/ldlPnTWngy
4.給水器を設置し、使い捨てペットボトル削減
客室で無償提供されていたペットボトル入りのミネラルウォーターを廃止し、ホテルの各フロアにウォーターサーバーを設置。
「森のタンブラー」と呼ばれるリユースカップを使って客室まで運ぶ仕組みを採用しています。
本取り組みの結果、年間約2万本のペットボトル削減につながっているんだとか。
企業側が仕組みを変えることのごみ削減効果の高さを実感しますね。
川崎キングスカイフロント東急REIホテルは、近隣に工場があったために廃棄物を資源としたエネルギー活用を実現し得た、唯一無二のホテルだといえるのではないでしょうか。
星のや軽井沢|長野県
星のや軽井沢は、長野県浅間山のふもとの森の中に位置する高級旅館です。
リニューアルオープンしたのは2005年ですが、以前より営業していた星野温泉は1914年創業。100年以上の歴史がある老舗です。
大自然に囲まれた贅沢なひとときを過ごせる旅館。
四季折々の表情が違うようなので、一度と言わず何度も訪れてみたいと思われる方も多いのではないでしょうか。
星のや軽井沢
— @にとえる (@kun_riz) 2021年8月21日
ロビーが洞窟ぽくて外は川の音ずっと聴こえてて鴨泳いでるし夜は真っ暗だしでめちゃ童心に帰れる pic.twitter.com/eQ6PJeNmgu
高級リゾートとして知られている「星のや軽井沢」は、ゼロウェイストやエネルギーの自給自足にも力を入れられています。
「星のや軽井沢」を含む軽井沢事業所では、2000年に「ゼロ・プロジェクト」を立ち上げ、2011年にホテル業界で初めて廃棄物の再資源化率100%を達成しています。
1.廃棄物ゼロのための社員研修
廃棄物ゼロを達成するために、全社員が28種類の分別を行えるように教育されます。
新入社員は星野リゾート資源分別ゲーム「シゲカツ」で分別ルールを覚えなければなりません。
ゲームにクリアして初めて、配属先に行けるシステムとなっているんだそう。
2年目以降も年1回「シゲカツ」テストが実施されるようです。
分別を行った後は、各部署ごとに廃棄物の量を計量、データを見える化し、環境負荷を定量的に把握されています。
間違えた分別をするとレッドカードが発行されるという徹底ぶりです。
2.リユースの積極的推進
事業所内で不用品が発生した場合は、他の部署で再利用できないかをまず先に確認するルールがあります。
また、飲料類は可能な限りリターナブル瓶を採用し、取引先に回収してもらうようにしています。
3.婚礼料理当日選択制の導入
旅館の廃棄物の中では生ごみが大半を占めます。
食べ残しを減らすために、婚礼料理の当日選択制というシステムを導入されています。
参列者が当日に和食洋食・肉か魚、料理の分量を選べることで、好き嫌いや食べきれなかったという理由の食べ残しが16%減ったのだそう。
生ごみを減らすだけでなく、参列者の満足度向上にもつながるwin-winな取り組みですね。
4.生ごみの堆肥化
どうしても発生してしまう生ごみは、近隣の牧場まで運び、堆肥化されます。
堆肥は牧場の野菜栽培に使用され、作られた野菜は事業所で星のやが購入するという循環が生まれています。
5.その他環境負荷低減の取り組み
・エネルギー自給率70%を実現
星のや軽井沢では、水力発電と地中熱利用、排熱利用を行い、エネルギー自給率70%を実現しています。
星のやでの水力発電は大正時代から始まっています。
当時は電力がなかったため、敷地内に豊富にあった水を利用して木製水車で発電を行っていたそうです。
水力発電に使われる水は、旅館を構成する水景ともなっています。
厨房のプロパンガス以外は、自給エネルギーで賄われているという点が驚きですよね。
GOOD NATURE HOTEL KYOTO|京都府
GOOD NATURE HOTEL KYOTO は2019年に京都の中心部にオープンした、ホテル・ショップ・レストランを複合した商業施設です。
中庭空間を囲む壁面緑化が本建物の特徴。
建物、ショップ、食、体験、どこを切り取っても「ハイセンス」という言葉が似合う施設です。
京都河原町通にあるライフスタイル体験型ホテル「GOOD NATURE HOTEL KYOTO」が素敵…
— あこがれホテル👟 (@akogare_hotel) 2022年6月12日
足を踏み入れると、京都の植生を再現した圧巻の壁面緑化がお出迎え。客室は中庭を望むガーデンビューテラスなど天然素材にこだわった部屋から選択。緑に囲まれ、つい京都の中心部にいることすら忘れてしまう空間… pic.twitter.com/JmjJd7SZQx
GOOD NATURE HOTEL KYOTO は「人にも、自然にも、いいものを」をコンセプトにした施設です。
ホテルで過ごす時間がサステナブルな体験となるよう、細部までかなりこだわられています。
ゼロウェイストにつながるこだわりポイントをご紹介していきたいと思います。
1.ゴミ分別ステーションの設置
複合施設の1階部分イートインコーナーには、ゴミ分別ステーションが設置されています。
食べ終わった後のゴミや食べ残しを細かく分別できるように設計されており、分別されたゴミはリサイクルにつなげています。
2.客室の茶器を金継ぎ
欠けたり割れてしまった客室の茶器を、日本伝統の修理方法である「金継ぎ」で補修する取り組みを始められています。
京都河原町「GOOD NATURE HOTEL KYOTO」金継ぎで茶器を直して長く使用 https://t.co/HYi48Z2R93 pic.twitter.com/bHOSHp5oeD
— moriya (@bixbyite_moriya) 2021年11月11日
3.食品廃棄物の堆肥化
レストランや施設から出た食品廃棄物は、施設内のコンポストで堆肥化されます。
近隣の農園でさらに熟成させ、田んぼの肥料として活用。
田んぼで収穫されたお米はレストランでも使用される、という循環を生み出しています。
4.フラワーロス問題に着目したドライフラワールーム
生花は、規格外だったり売れ残ると廃棄されてしまいます。これをフラワーロス問題と呼ばれています。
本ホテルでは、廃棄が出にくいドライフラワーをふんだんに使ったドライフラワールームを用意されています。
ドライフラワーの魅力に気づけるかもしれせんね。
京都・河原町「GOOD NATURE HOTEL KYOTO」の、ドライフラワーを使ったスペシャルなお部屋が可愛すぎる💕
— はるぼぼ✈トラベルライター@バンコク滞在中⇒9月ヨーロッパ🇦🇹🇸🇮🇮🇹🇵🇹 (@harubobo_nikki) 2021年11月27日
特に素敵だと思ったのが、白のドライフラワー✨白のドライフラワーがこんなにも幻想的だなんて… pic.twitter.com/HcUSBiJ1WF
5.各フロアにウォーターサーバーを設置
各フロアにウォーターサーバーを、客室内に専用タンブラーを設置し、使い捨てゴミを出さず、24時間いつでもお水が飲めるように工夫されています。
また、館内には自動販売機を設置しないなど、ペットボトルゴミの削減にも取り組まれています。
6.使い捨てアメニティは最小限に
使い捨てを減らすべく、客室に設置する使い捨てアメニティは最小限(タオル・ナイトウェア・コットン・綿棒)
歯ブラシを忘れてしまって購入する場合も、使い捨てではない竹製歯ブラシが提供されます。
7.エコバックが使える
ホテルに備え付けてあるジュートバッグを自由に使えます。
ホテル滞在時のお買い物やお出かけ時のサブバッグとして活用できる点がうれしいですね。
ストイックにごみを削減するのではなく、心地よさを求めた結果ごみ削減にもつながっていた、というようなスタイルの取り組みをされているホテルです。
HOTEL WHY|徳島県
ゼロウェイストなホテルといえば、一番に名前が上がるほど有名なホテルです。
日本で初めてゼロ・ウェイスト宣言を行った徳島県上勝町に、オープンしたのが「HOTEL WHY」です。
ホテルとごみ分別施設・研修施設が一体となった建物です。
建築家の中村拓志氏が設計されています。
上空から見ると建物の平面形状が「?」の形になっていることがわかると思います。
現代の暮らしに「WHY」を突きつけられるような施設です。
ホテルの建物及び併設施設の概要は動画でご覧いただければわかりやすいです。
ゼロウェイストなポイントを上げていくときりがないほど、日本の中で最もゴミを出さないことに気を遣っているホテルだといえます。
細かい工夫がたくさんありご紹介しきれないのですが、大きなポイントに絞ると以下のような特徴があります。
1.建物の至る所に廃材が使用されている
ホテルを含む施設全体には、廃材が多数組み込まれています。
こんなところに?!という驚きや発見が尽きないと思います。
何が使われているのか、という廃材を探してみるのも滞在時の一つの楽しみ方ですね。
徳島県上勝町、ゼロウェイストセンターWHYの併設ホテルに。一年半前から行ってみたかったところ!廃材を使った建物、ドアノブが石、45種類に分けるゴミの分別。#上勝町 #ゼロウェイスト #zerowaste pic.twitter.com/dw8rPzbh5l
— kanami. (@kanami_ame) 2021年12月9日
上勝whyの本棚。徹底してリサイクル。好感が持てますねー😍 pic.twitter.com/NuaYQqrM0n
— しづりん (@sea_zz_ca) 2022年5月19日
2.使い捨てのアメニティなし
歯ブラシなどの使い捨てアメニティは一切置かれていないため、必要な方は持参する必要があります。
タオル、シャンプー、リンス、ボディソープは備品として使うことができます。
シャンプー、リンス、ボディソープは備え付けボトルをリユースし、詰め替え式とするなど、容器ゴミを出さないように工夫されています。
3.必要な量を自分で考える体験
部屋で使う石鹸や、コーヒー・お茶は必要な分を量って使う体験ができます。
自分にとって適量は一体どのくらいなんだろう?と考えるきっかけにもなりますね。
4.ごみの分別を体験できる
HOTEL WHY に宿泊した人限定で、上勝町で行われている40を超える分別を体験できます。
分別したゴミの多くは資源としてリサイクルされる仕組みとなっています。
SDGsが体験できる街、徳島県上勝町にお邪魔しています。
— Toru Kohara 古原徹 【アサヒユウアス】 (@Moritumbler) 2021年10月8日
ハテナのマークで有名なゴミステーション横の
WHYホテルに宿泊。
お部屋で使う石鹸とコーヒー、茶葉は必要な分だけ。
ゴミの分別は45種類!80%のゴミが再生化。#上勝町#zerowaste #ホテルwhy#SDGs pic.twitter.com/cTwmvbdkwK
「HOTEL WHY」は各所に工夫が散りばめられていて、建築としても、ゼロウェイストな取り組みとしても見どころが満載ですよ。
百聞は一見にしかずですので、興味のある方は是非泊まられてみてくださいね。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
宿泊施設では生ごみの量がどうしても多くなるため、堆肥化するなど、工夫されていることがわかりますね。
また、使い捨てアメニティを減らす取り組みなどもされていますよね。
いずれのホテルもゼロウェイストな取り組み以外の面でも魅力的な面がたくさんあります。
ご紹介した中に、行ってみたいと思っていただけるホテルが見つかればうれしいです。
宿泊情報まとめ
他にも捨てない暮らしに関する記事を書いています。
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